「いい香りって、なんだか気持ちがよくなるなー」と感じたことはありませんか?
実は、香りには気分をよくするだけじゃなくて、脳の記憶力を大幅にアップさせる力があることが、最新の科学研究で明らかになりました。
しかも、その方法はとっても簡単。
寝ている間に天然の香りを日替わりで嗅ぐだけなんです!
今回は、アメリカ・カリフォルニア大学の研究チームが発表した「香りと記憶力」に関する驚きの研究結果をわかりやすく解説していきます。
その研究って、どんな実験をしたの?
この研究は、アメリカのカリフォルニア大学アーバイン校の科学者チームが行いました。
実験に参加したのは、60歳〜85歳の男女43人です。
参加者はランダムに2つのグループに分けられ、6ヶ月間にわたって次のような条件で眠りました。
| グループA(しっかり香る) | グループB(ふんわり香る) | |
|---|---|---|
| 香りの強さ(香り成分の量) | 明確な香り(適量) | ほぼ無香(ごく微量) |
| 香りの種類 | 7種類 | 7種類 |
| 香りを嗅ぐ時間 | 就寝後2時間 | 就寝後2時間 |
使われた7種類の天然の香り
実験で使われたのは、どれも自然由来のエッセンシャルオイル(精油)です。
7日間「違うエッセンシャルオイルを嗅ぎながら眠る」というスタイルで実験が行われました。
| 曜日(例) | 香りの種類 | 特徴・イメージ |
|---|---|---|
| 月曜日 | ローズ | 華やかで甘い花の香り |
| 火曜日 | オレンジ | 明るくフレッシュな柑橘系 |
| 水曜日 | ユーカリ | スッキリとした清涼感 |
| 木曜日 | レモン | 爽やかな酸味のある柑橘系 |
| 金曜日 | ペパーミント | ひんやりとしたミントの香り |
| 土曜日 | ローズマリー | ハーブらしいシャープな香り |
| 日曜日 | ラベンダー | 落ち着いた甘さのフローラル系 |
「同じ香りをずっと使えばいいのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、研究チームはその点についても言及しています。
なぜ日替わりにするのか?
研究チームによると、嗅覚刺激において「新規性(→脳が飽きずに反応し続けるための、刺激の新鮮さ)」が効果の鍵だとされています。
過去の研究では、複数のエッセンシャルオイルを同様に混ぜて使った場合には効果が見られなかったそうです。
一方、1種類ずつ個別に、かつ毎回異なるエッセンシャルオイルを使った場合には、効果が確認されていました。
この過去の研究結果をもとに、今回の実験設計が組まれました。
つまり、「1種類ずつ、日替わりで」という方法は、研究者たちが科学的な根拠にもとづいて選んだ方法なのです。
結果はなんと「226%の記憶力アップ」!
グループAとグループBの実験結果は、研究者たちも驚くほどのものでした。
記憶力テスト(言葉を記憶するテスト)の結果、しっかり香るグループAは、ふんわり香るグループBに比べてなんと226%もスコアが高かったのです。
226%というのは「約2.26倍」ですから、ほぼ2倍以上の差があったということです。
しかも、MRIで脳を撮影したところ、しっかり香るグループAでは「鉤状束(こうじょうそく)」という脳の神経回路が強化されていたことも確認されました。
「鉤状束」ってなに?
「鉤状束(こうじょうそく)」とは、大脳にある記憶をつかさどる「側頭葉(そくとうよう)」と、思考や言語をつかさどる「前頭葉(ぜんとうよう)」を結ぶ神経の通り道のことです。
難しい言葉ですが、簡単に言うと「記憶と思考を結ぶ脳の中の連絡網」のようなものです。

この通り道は、年をとるにつれて少しずつ弱くなっていくことが知られています。
ところが、適量のエッセンシャルオイルの香りを嗅ぎながら眠ると、この通り道がより強く・スムーズになっていたことが分かったのです。
※記憶を司る脳の重要な「海馬」という部位がありますが、この「海馬」は側頭葉の内側に存在しています。
なぜ「香り」が記憶力に影響するの?
今回の研究で、「香り」で記憶力がアップしましたが、実は、嗅覚(きゅうかく)はほかの感覚と違って、特別なルートを持っています。
視覚と聴覚などの感覚は、脳のいくつかの部分を経由してから、記憶や感情をつかさどる「側頭葉(そくとうよう)」に届きます。
しかし、嗅覚の情報は、経由することなく「側頭葉(そくとうよう)」に直接つながっているのです。

側頭葉(そくとうよう)には、記憶を担当する「海馬」と感情を担当する「扁桃体」があります。
つまり、においは脳の記憶・感情センターに「ショートカット」で届く、特別な感覚なのです。
昔かいだ花のにおいで突然子どもの頃の記憶がよみがえる、なんて経験はありませんか?
それはまさに、嗅覚と記憶が脳の中で深くつながっているからなんです。
なぜ「眠っている間」なの?
就寝後2時間の間に香りを使用した理由は、眠っている間は脳が昼間に得た情報を整理して「記憶」として固定する時間だからです。
この記憶の整理作業は「記憶の固定化(メモリーコンソリデーション)」と呼ばれています。
研究者たちは、眠っている間に香りの刺激を与えることで、この記憶の整理作業がより活発になるのではないかと考えています。
香りが嗅覚を通じて記憶中枢に働きかけ、睡眠中の脳トレーニングを助けているイメージです。
これって、認知症の予防にも使えるの?
研究チームが特に注目したのは、認知症の予防への応用です。
認知症とは、記憶力や思考力が少しずつ失われていく病気で、特に高齢者に多く見られます。
現在、認知症の予防や治療には難しい点が多く、研究者たちは「もっと手軽で効果的な方法はないか」と探しています。
今回の研究では「7種類の天然のエッセンシャルオイルを就寝中に日替わりで適量を嗅ぐだけ」という、誰でも家でできる方法で効果が確認されました。
薬も手術も必要なく、費用もそれほどかからないため、研究者たちは「高齢者の認知機能を守る新しい方法として非常に期待できる」と発表しています。
実際にやってみるには?
この研究の内容を参考に、自宅でできる「香り睡眠」を試してみる場合のポイントをまとめました。
実践のポイント
- 香りの種類:就寝前に安心して使える精油はベルガモット、ヒノキ、ティーツリー、シダーウッドなど。実験とは異なりますが、ユーカリ、レモン、ペパーミント、ローズマリーは不眠の方にはお勧めできません。
- ローテーション:毎日同じ香りではなく、1週間で7種類を順番に使うのが実験の方法に近い形です。
- タイミング:就寝前〜就寝後2時間頃の使用が実験と同じ条件です。
- 量の加減:エッセンシャルオイルは種類によって香りの強いものもあるため、最初は少量からはじめて、自分に合った量を調整しましょう。
- 注意事項:小さなお子さんやペットがいるご家庭では、エッセンシャルオイルの種類や量に注意が必要です。
まとめ:「香り」は脳にとって最高のごちそう
今回の研究で分かったことをまとめると、「就寝中に日替わりで天然のエッセンシャルオイルの香りを嗅ぐことで、記憶力が大幅にアップし、脳の神経回路も強くなる」ということです。
香りというのは、私たちが思っているよりずっと、脳にとって大切な情報なのかもしれません。
私たちの祖先は、自然の中でたくさんの香りに囲まれて生活していました。
花の香り、土の香り、雨の香り……そういった自然の香りが、長い進化の歴史の中で、人間の脳と深く結びついてきたのではないでしょうか。
「今日から枕元にラベンダーのエッセンシャルオイルを置いてみようかな」そんな小さな一歩が、あなたの脳を守る第一歩になるかもしれません。
ぜひ、いい香りに包まれた質の高い睡眠を試してみてください。
参考文献:Woo CC, Miranda B, Sathishkumar M, Dehkordi-Vakil F, Yassa MA and Leon M (2023) Overnight olfactory enrichment using an odorant diffuser improves memory and modifies the uncinate fasciculus in older adults. Front. Neurosci. 17:1200448. doi: 10.3389/fnins.2023.1200448
監修:IFA国際アロマセラピスト 山田奈保